若手社員育成
人の教育にはマニュアルが通用しない
例えば「何度も同じミスを繰り返す部下」にどのように関わればいいのでしょうか。
まず率直に申し上げますと
「このタイプにはこうすればいい」という万能のテクニックやスキルは存在しません。
そこには正解もなく、「これで良い」という終着点もないのです。
漫画ワンピースをご存じの方は多いと思いますが、
主人公の海賊船の船医であるチョッパーにこのようなセリフがあります。
「おれが万能薬になる」
つまり、どんな病気にも効く万能薬なんてものはなく、
自分があの手この手を使って、その時のその状況でその状態に対して
できる最善を尽くすことを志としているわけです。
そこには、あの人がどうだの、という他責は存在しません。
つまり、会社内の人材育成にテクニックやスキルなどの万能薬を求めるのではなく、皆さんが万能薬になるべく、知識と技術を学んでいただきたいと考えています。
人財育成の万能薬になるために
側面的支援型の教育とは
現代の若者への教育についてこれまでの根性論やトップダウン型の教育では通用しなくなってきました。
実は、ガンガンいくのではなく、横に立ってそっと背中を押すような関わりが現代の若手社員の教育には有効です。
これを「側面的支援型」の教育と呼んでいます。
側面的支援はもともとは、医療や介護・福祉で使われる言葉です。
介護の現場では、なんでもかんでもやってあげる事(全面支援)ではなくて、必要なところで支えつつ、できるところは可能な限り自分でできるようにしてもらうようなイメージです。
べたっとくっついて、あれこれ世話を焼いたり、ただただやさしく接することではありません。
いつもちゃんと見ているよ、という距離感で、困ったときに必要に応じで手を差し伸べるのです。
側面的支援は、全面支援は依存心をうみますが、社員の自立心を醸成しますが、
側面的支援型の教育で見立てていくもの
側面的支援型の教育では、
部下の言動を
個人にある要因と
個人を取り巻く環境にある要因
にわけて見立てていきます。
なぜなら個人の行動は、個人の要素と環境との相互作用の結果だからです。
「同じミスを繰り返す」ことは本当に部下自体の問題なのでしょうか?
・本人の能力が低い
・やる気の問題
・性格に難がある
もちろんこれらの要因がある可能性もあります。
しかし個人要因ばかりに目を向けると
いつもその人が悪者になってしまいます。
そこで、環境にも目を向けてみます。
例えば、「同じミスを繰り返す」部下が、おなじミスを繰り返さざるを得ない環境や状況だったらどうでしょうか。
・上司側の指示が抽象的
・わからないことを聞けない環境
・上司の指示が、現場の先輩からの指示と矛盾している
・やり方やルールが本人にとって無理がある
このように、本人を取り巻いている環境が、本人のミスを誘発している可能性もあるはずです。
個人と環境それぞれを見立てていくことで、「ミスを繰り返す部下」に対しての対策やかかわりが変わってくるはずです。
個人要因に係る見立ての視点
見立ての視点の4つの枠組み
- 発達的特性
- メンタル状態
- 認知の偏り
- 人格的特性
簡単に説明いたします。
発達特性 とは、脳の働きや思考の特徴のことです。
人には得意不得意がありますが、この発達特性が凸凹と存在しており、ある特定の場面や状況で目立ってしまうことがあります。
それが業務を行う上で、障がいとなり、ミスやトラブルとして表出している可能性を見立てる視点です。
「何度言っても同じミスを繰り返す」
「優先順位がつけられない」
このような場合は、発達特性を見立ててみます。
メンタル状態 とは、ストレス状態の継続などにより、通常より処理能力が低下したり、気分が上下して業務の質にバラツキがでている状態等を見立てる視点です。
「以前はやる気があったのに、最近ミスが増えたり怠けだしている」
このような場合は、メンタル状態を見立ててみるのがいいでしょう。
認知の偏り とは、物事の考え方や捉え方の特徴を指します。
認知とは過去の経験から獲得されたものであり、時には根拠のない決めつけや、こちらから意図しない形で過剰にネガティブに解釈してしまうような場合を偏りと表現しています。
「どうせ」や「絶対」「べき」等を多用し、捉え方がズレたり、行動しない理由をつくったりする場合は、認知の偏りを見ていきます。
人格的特性 とは、発達特性や認知の偏り、そして家庭環境などの要因が混在し、感情のコントロールや人間関係にも影響を与えてしまうような特性です。
「意見をいっただけで、否定されたと感じて炎上してしまう」
「自分より下だと思った人には攻撃的な言動が目立つ」
など特性の表れ方は様々です。
以上の4つを見立てるだけでも概ね7割ほどは、個人の言動の背景が説明できます。
では、発達特性を例にして、
「何度も同じミスを繰り返す部下」を見立ててみましょう
発達的特性
数字が得意だけど、空気がよめなかったり、一つのことに集中できるけど、机の上が片づけられなかったり、人によって様々です。
この凸っとした部分や凹っとした部分が、日常生活や業務の特性、環境によって、目につく事があります。
発達障がいという言葉がありますが、これは、これらの特性が通常生活上、または業務遂行上、明らかに障がいとなっている状態をさします。
ある意味で言うと診断がつけば、適切なサポートを受けやすくなりますが、そこまでの状態ではないにしても、生活や業務上ではやや特性が目立つ状態、つまりグレーゾーンの特性がみられる方が多いです。
特性自体はすべての人が持っていますが、職場で困り事として目立つような凸凹状態の方は5人に1人ぐらいの割合と言われています。
実際にはどんな困りごとがおこるのか?
●忘れ物、事、同じミスの繰り返し
何度言ってもミスが起きる
大丈夫です、と言っても大丈夫じゃない
3つ以上の仕事が重なると、取りこぼしやほったらかしが発生する
ということが起こり得ます。
ワーキングメモリと言って、脳の中に作業台があるイメージをしてください。
本来でしたら、その作業台の上には、2,3つタスクを置き、自由に置き換えながら処理ができると思います。
しかし、その作業台が狭い方がみえます。
2つ以上のタスクを置こうとすると、1個がおぼれ落ちてしまうようなイメージです。
頭の中にひっかけておくことが苦手な状態です。
●想像力の弱さ
例え話や、目の前に起きていない事象の話が伝わらない
急な予定変更に対応できない
思い込みでやってしまう
●こだわりの強さ
決まったやり方から外れることを過度に嫌う
こだわりを通すために、期限を守らない
などなど様々な特性があります。
これは、特性の一つなので、どれだけ声を荒げて叱ったとしても、修正はできません。
●感覚過敏
においや音、視覚情報等、五感で感じるものが、過剰に近くしてしまったり、鈍かったりする特性です。
「電話中に隣の人の話し声があると、電話の相手の話をきけなくなる」
「においや光に敏感で仕事に集中できない」
などのケースがあります。
さて、
「何度も同じミスを繰り返す部下」について見立ててみると、
・わかっているつもりで上司の指示を聞いていたが、いざやってみる時に思い込みでやってしまっている
・やろうとしている所に、差し込み案件が入ってきて、抜けがでてしまう
・自分のこだわりが強く、やり方を変更できないことからミスに繋がっている
これらの特性も考えられます。
そして、個人の特性だけではなく、環境要因も見立てていく必要があります。